ローディング

さいはての彼女

文学・エッセイ

沖縄でバカンスのはずが、なぜか北海道女満別へ。
仕事一筋に生きてきた女性経営者スズカを待っていたのは、ポンコツの軽自動車のレンタカー。BMWに慣れているスズカは、サイドブレーキの位置がわからず、サイドミラーの動かし方もわからず途方にくれます。そして路肩に止めた車のドアを蹴飛ばします。茫然自失。

そこに現れた、ハーレーダビッソトンでツーリングをしている若い女性ナギ。ナギは山梨県に住むハーレーのカスタムビルダーで、あるハンディを持っています。ハーレーには「サイハテ」という名がついており、ナギは車を置いてサイハテに一緒に乗らないかとスズカを誘います。

そうしてはじまった、最果てをめざす二人のツーリング。
羅臼岳を左手にのぞみながら走る知床横断道路、羅臼岳の雄姿が胸に迫ります。地響きのような走行音、振動、コーナリングで倒す体と地面の距離、風との一体感。ナギの背中で、ただそこにある風景を突っ切って走り続けるうちに、スズカは頭も心も空っぽになります。食事や宿泊などいく先々で、ナギを笑顔で迎える馴染みの人たちは、スズカをも旧知の友人のように受け入れてくれました。

ナギの夢は、いつかサイハテと一緒にアメリカを横断すること。
事故で他界した父が残した、「自分で線を引くな、生きるんだ、超えていくんだ」という言葉を大事にして生きています。

スズカさんの夢は?とナギに聞かれて、誰よりも高いところに立って、父や社会を見返してやると思ってきたが、それが本当に夢だったのかと、がむしゃらに生きてきた自分をスズカは振り返ります。
起業して10年、結婚できなかった彼のこと、長年一緒にやてきた秘書の退職、直前の講演会で披露したビジネス哲学「最悪の事態に直面した時、一時間後に立ち直っている自分を想像できるか」……。
頑なだった心がほどけて自分が戻ってきます。彼女の背中で、テリトリー以外の場所で。

旅に出て、知らない人と出会いたい。それは、実際の旅かもしれないし、新しいことへの挑戦かもしれない。もしかしたら、立ち返ることかも。
再びスタートラインに立つ自分に、きっと出会えます。
一気に読めるリズムの良さ、読んだ後、シュワーっと爽やかな気分になれます。


★おまけ
私の小さな空っぽのつくり方は、ただ黙々と草を取ること。我が家には何も植えていない、草取り用の狭い畑があります 笑

さいはての彼女

浜田マハ
出版角川文庫
初版2013年1月25日