田舎にある、丈夫できれいな、りんごの木のある小さい家。
その小さい家は、太陽や月や星を眺め、やってくる渡り鳥や、木々の蕾の膨らみ、赤や黄色に染まる木の葉、雪で真っ白になる畑など、季節が移り変わっていくのをゆっくりと眺めて幸せに暮らしていました。昨日と今日の少しづつの違いを楽しみながら。
ところがある日、車がやってきて、家がたくさんでき、ガソリンスタンドができました。車も人も忙しそうに行ったり来たり。
いつしか小さな家は、道路、アパート、お店、駐車場などに囲まれてしまい、住む人もなくなりました。都会になってしまった街は、夜になっても静かにならず灯りが一晩中ついていました。
それでも、小さい家はじっとそこにいました。
電車が家の前をとおり、ビルが建ち、地下室ができ、人が忙しそうに駆け回り、春も秋も冬も夏もわかりません。
小さい家はしょんぼりしてしまいます。
ある日、家の前を男の子と女の子を連れた男の人と女の人がが通りかかります。その女の人は家を建てた人の孫の孫のそのまた孫にあたる人でした。
小さい家は、広い野原の真ん中の、リンゴの木のある小さな丘に引っ越すことになりました。家は修理され色を塗られ、きれいな家になりました。小さい家には、また人が住み、太陽な月や星を眺め、季節がめぐってくるのを眺めることができるようになりました。
家の気持ちの移り変わりが、まるで、人の心のように描かれていて、「誰か気づいて」という、つぶやきが聞こえてきそうです。
便利さや新しさのなかで失われていく、時間や居場所、自分をとりもどしたいですね。
★おまけ
時折、ふと思い立って、小学校2年まで暮らした家を訪れることがあります。今は他人の持ち家なので遠くから見るだけです。父が座敷に釣ってくれたブランコや、家の前の畑に作ってくれた鉄棒、縁に下がった干し柿、玄関に置かれた黒電話。そうそう、お風呂は五右衛門風呂でした。
著 | バージニア・リー・バートン |
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訳 | 石井桃子 |
出版 | 岩波書店 |
初版 | 1954年4月15日 |