冬の朝、自転車に乗る瞬間のきりりとした空気。四浦の坂の上から見下ろす夕焼けの海、水面に輝く波の優美さ。
突如として幸せとも、喜びとも形容し難い満ちてくる感情がある。無意識のうちに、伝えたい、わかちあいたいと思うような。
誰かの姿が浮かぶこともあれば、漠然としていることもある。
「のはらにおはながさきはじめたら」は、ちょっとだけ先に生まれて、ちょっとだけ広い世界に生きているおねえちゃんが、ちいさな弟に語りかける物語。
のはらにおはながさきはじめたら たくさんつんであげる
ゆきがふってつもったら ゆきだるまをつくってあげる
うみへいったらかいをみつけて……
えいがをみたらうたをおぼえて……
わたしがおかあさんになったら……
どのページを開いても、女の子の「今のよろこび」がありのままに描かれ、瞳の中に幼い弟を感じることができる。
誰かを愛しいと感じられること、満ち足りるというのはこういうことかもしれないと思う。
日々の中で、誰かと分かちあいたいことがあるって幸せなこと。
どうか、あなたの瞳の中に誰かが浮かびますように。
線画の描写は決して華やかではないけれど、空気の形、気温まで伝わってくる。
★おまけ
「四浦の坂」というのは、陸の孤島と呼ばれる大分県津久見市四浦落の浦の坂で、夫の故郷。その坂から見下ろす海はいつでも心に沁みる。
「のはらに おはなが さきはじめたら」は絶版になっていて、タイトル「はるになったら」として、訳が変わって出版されています。まだ、新しい訳は読んだことがないので読んでみたい。
著 | シャーロット・ゾロトウ |
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絵 | ガース・ウィリアムズ |
訳 | おびかゆうこ |
出版 | 徳間書店 |
初版 | 2003年4月30日 |